
ドイツのビールをビールに詳しい人に飲んでもらうと、「あ、ドイツっぽい」と言われることがあります。
でもその理由や違いを言葉にして表現するのはとても難しいです。ドイツで飲んだ記憶があるわけでもないのに、一口飲んだ瞬間になんとなくそう感じる。
では、その「ドイツっぽさ」の正体は何なのでしょうか。
色は日本のビールと同じような黄金色で、見た目はほとんど変わりません。それなのに、確かに違う。今日はその正体を、ひとつずつ分解してみます。
◯「ドイツっぽさ」は、ビールの種類の違いから来るのではない
*ドイツのビールも、日本のビールと同じ系統にいる
先に前提を一つ。日本の売り場に並ぶ黄金色のビールも、ドイツでいちばん飲まれているビールも、じつは同じ「ピルスナー」という系統に属します。
ドイツのビール市場のおよそ半分がこのピルスナー。そしてそのドイツで育ったものがジャーマンピルスナーです。日本のビールとは遠い親戚どころか、同じ家系の中での違いということになります。
*近いからこそ、差が浮き上がる
黒ビールと日本のビールを飲み比べても、「違って当たり前」で話が終わってしまいます。
ところが同じピルスナーの系統どうしだと、見た目がほぼ同じぶん、香りと苦みの差だけがくっきり浮かび上がる。
「なんだこれ、同じようなビールのはずなのに」という戸惑いは、二つが遠いからではなく、近いから起きているわけです。「ドイツっぽさ」の正体は、この差の中にあります。
🍺ドイツっぽさ① 鼻に来る香りの量
*口をつける前に、もう香っている
グラスに注いだ瞬間から、草やハーブのような青い香りが立ちます。飲む前から香っている、というのがまず日本のビールとの大きな違いです。
甘い香りではありません。摘みたての草を手でこすったような、落ち着いた匂い。華やかというより、静かな香りです。
慣れてくると、この香りが立った瞬間に「今日はいい状態だな」と分かるようになります。逆に香りが弱いときは、たいてい冷やしすぎか、注いでから時間が経ちすぎているかのどちらかです。
*いちばん簡単な確かめ方
日本のビールを先に一口飲んでから、ドイツのピルスに移ってみてください。
順番はこの向きが大事です。
「ドイツっぽい」と言われるとき、その多くはまずこの香りを指しています。味の記憶より先に、鼻が反応しているわけです。
🍺ドイツっぽさ② 苦みが、少し長くいる
*「キレ」とは、逆の考え方
もう一つは、苦みが消えるまでの時間です。
日本のビールで褒め言葉として使われる「キレ」は、飲み込んだあとに何も残らないこと。すっと消えるから、次の一口が軽くなる。暑い日にごくごく飲む場面では、これが本当に気持ちいい。
ドイツのピルスは、そこが逆です。苦みが少し長く舌にとどまり、飲み込んだあとも余韻が残っている。何も残らないことを目指していない、と言ってもいいかもしれません。
*好みは、はっきり分かれる
この余韻を「重い」と感じるか「飲みごたえ」と感じるかは、分かれる部分です。
苦みが残るのが苦手な方には、正直、最初の一杯は重く感じられるかもしれません。逆に、日本のビールでは物足りないと感じていた方には、ここが刺さります。
どちらが優れているという話ではなく、その人がビールに何を求めているか、という違いです。
◯なぜ、そういうビールになったのか
*ドイツは、丸ごと北海道より北にある
意外に思われるかもしれませんが、ドイツでいちばん南の地点は北緯47度。日本最北端の宗谷岬が北緯45度ですから、ドイツはいちばん南でさえ、北海道より北にあります。首都ベルリンにいたっては北緯52度です。
これは味の話に直結します。
日本の夏のように、汗だくで帰ってきてキンキンに冷えた一杯を喉に流し込む。あの飲み方が、生活の中でそこまで必要にならないんです。冷たさと喉ごしで押し切らなくていいぶん、香りや苦みをゆっくり味わう方向にビールが育っていく。
日本のビールが「よく冷えていておいしい」を突き詰めたのは、日本の夏があるからです。逆に言えば、どちらも自分の土地の気候に合わせて正解を出しただけ、ということになります。
*原料も、醸造所も、すぐそこにある
もう一つは、材料との距離です。
ドイツはホップの一大産地でもあります。バイエルンには広大なホップ畑が広がっていて、香りの品種を選び、どれだけ使うかを自由に決められる。ホップを主役に置くという発想は、それが手の届くところにある土地でこそ育ちます。
そして醸造所の数。ドイツには1,500を超える醸造所があり、街ごとに醸造所がある、と言ったほうが実感に近い。隣町へ行けば知らない銘柄が並んでいて、地元の人はそれを当たり前に飲んでいます。
全国どこでも同じ味、という発想があまりない。よそと同じでは選ばれないという環境で、それぞれの醸造所が香りや苦みの輪郭をはっきりさせてきました。長い時間をかけて土地の食事と一緒に磨かれてきた、ということでもあります。
◯ホップを、どこで働かせるか

*日本の一杯では、後味を締める側に回る
飲み比べていて感じるのは、日本のビールではホップが香りで前に出てくる場面が少ないということです。
そのかわり、飲み込んだあとをすっきり締める側で働いている。ぐっと飲んで、すっと消える。あの「消える」感じを支えているのがホップです。食事の邪魔をしない一杯というのは、こういう組み立てになります。
*ドイツの一杯では、輪郭を描く側に回る
ドイツのピルスは逆です。麦の甘みを土台にして、ホップの香りと苦みで輪郭を描く。飲んだあとの印象に残るのが、麦ではなくホップのほうなんです。
グラスに顔を近づけた時点で香りがわかるのは、ここが理由です。
同じ材料を使っていても、どちらを主役に置くかで、ビールはここまで表情を変えます。ドイツのビール全体の地図はドイツビールって何だろう?でご紹介しています。
◯冷やしすぎると、ドイツっぽさは消える
最後に、いちばん実用的な話を💡
日本のビールは4〜8℃あたりが飲み頃とされ、夏はやや低めがすすめられます。しっかり冷やして、爽快さで飲む。
ドイツのピルスは8℃くらい。冷やしすぎると、せっかくのホップの香りが閉じてしまうからです。
数字にすればわずかな差ですが、飲んだ印象はここでかなり変わります。ドイツのビールを試すときは、冷蔵庫から出して二、三分だけ置いてみてください。それだけで香りの立ち方が変わります。
グラスを凍らせるのも、この場合はおすすめしません。手に持った温度でゆっくり開いていくくらいが、ちょうどいい。飲み終わる頃に少しぬるくなっても、そのぶん麦の甘みが顔を出してきます。
キンキンに冷えたグラスで飲んで「思ったより香りがしないな」と感じたことがあれば、たぶんビールのせいではありません。温度のせいです。せっかくの「ドイツっぽさ」を、自分で閉じてしまっているだけなんです。
◯どちらが上、という話ではありません
ここまで違いばかり並べてきましたが、優劣の話ではまったくありません。
日本のビールは、日本の食事と気候のなかで磨かれてきました。脂の少ない料理にも寄り添い、湿度の高い夏に冷たく喉を通っていく。あの軽やかさは、狙ってつくられたものです。世界中で評価されているのも、そこに理由があります。
ドイツのピルスは、ドイツの食卓のなかで磨かれてきました。何杯も続けて飲む生活のなかで、麦の厚みと苦みの余韻が残された。
同じ家系から出発して、それぞれの土地で別々に育った。「ドイツっぽさ」とは、要するにドイツの飲み方が味の形になったもの、ということなのだと思います。
いつもの一本を一口飲んでから、ドイツのピルスをもう一口。それだけで、両方の輪郭がくっきり見えてきます。シュマッツのビール一覧から選んで、オンラインショップでご自宅までお届けできます。
樽から注いだ一杯はまた別物なので、機会があればシュマッツのレストランにも寄ってみてください。同じ系統のビールでここまで違うのか、と思っていただけるはずです。
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