
冷蔵庫から缶ビールを出して、そのままプシュッと開ける。
家で飲むとき、たぶんいちばん多い飲み方です。洗い物も出ないし、片手で持てるし、なにより手間がない。
いっぽうで「ビールはグラスに注いだほうがおいしい」という話もよく聞きます。どっちが本当なんでしょうか。
私たちはドイツビールのレストランをやっていて、毎日ビールを注いでいます。店では、瓶で注文されても必ずグラスを添えて出します。 けれど家で缶を開けるとき、自分はどうしているかというと、正直そのまま飲む日もあります。
結論から言うと、飲んでいるビールによって答えが変わります。今日はその話をします!
💡 缶のまま飲むのは、悪いことなのか
喉で飲むビールなら、それでいい
まず、缶のまま飲むことを否定するつもりはまったくありません。
よく冷えたビールを、汗をかいたあとに喉へ流し込む。あの気持ちよさは、缶のままのほうがむしろ素直に味わえます。グラスに移す数十秒のあいだにぬるくなるくらいなら、開けてすぐ飲んだほうがいい。
冷たさと喉ごしで飲むビールに、グラスは必須ではありません。 これは好みの問題ではなく、そのビールの設計に合った飲み方かどうかの問題です。
💡 香りで飲むビールだと、話が変わる
問題は、香りが主役のビールを缶のまま飲んだときです。
たとえばシュマッツのジャーマンピルスナーは、香りを出すために選んだホップを使っています。ヴァイツェンはバナナのような甘い香りが持ち味ですし、ヘレスも麦のやわらかい香りが身上です。ドイツのビールは、香りに性格が出るものが多い。
このタイプは、飲む前から香りが立つようにつくられています。ところが缶のままだと、その香りがほとんど届きません。せっかくの設計が、半分くらい無駄になってしまう。
同じ「缶ビール」でも、扱い方を変えたほうがいいものがある、ということです。
💡 缶のままだと、香りはどこへ行くのか
◯ 鼻が入らない
理由は単純で、缶の飲み口が小さすぎるからです。
私たちが「味わい」だと思っているものの大部分は、実は鼻で感じ取っています。口の中の食べ物や飲み物の香りが、喉の奥から鼻へ抜けていく。あれがないと、味の輪郭はぼやけます。
缶の飲み口は直径数センチしかありません。そこに口をつけると、鼻は缶の外側にいます。香りが立ちのぼる場所と、それを嗅ぐ器官が、物理的に離れてしまうわけです。
店でお客さまが最初にされることを見ていると、これがよく分かります。グラスが置かれると、まず顔を近づける方が多い。意識していなくても、人は飲む前に香りを取りにいっています。
試しに、同じビールを缶のままひと口飲んでから、残りをグラスに注いで飲んでみてください。同じ一本とは思えないくらい印象が変わることがあります。
◯ 泡が立たない
もうひとつは泡です。
缶のまま飲むと、泡はほとんど立ちません。泡は見た目のためだけのものではなく、液面に蓋をして炭酸と香りを閉じ込めておく役割を持っています。
蓋がない状態で飲み続けると、炭酸は抜けていくし、香りも先に飛んでいく。缶のまま最後まで飲むと、後半だけ味が変わったように感じるのは、これが理由のひとつです。
しかも缶は手で握って飲みます。金属は熱をよく通すので、手の温度がそのまま中身に伝わる。ゆっくり飲む日ほど、この差は出てきます。
💡 グラスに注ぐと、何が変わるか

◯ 香りが開く
グラスに注いだ瞬間、缶のなかで閉じていた香りが一気に立ちます。
炭酸が液面から抜けるときに、香りの成分を一緒に連れて上がってくるからです。だから注ぎたてがいちばん香る。ここが、缶のままでは絶対に起きないことです。
口の広いグラスなら、飲むときに鼻もグラスの中に入ります。香りを嗅ぎながら飲む状態になる。それだけで、同じビールがかなり違って感じられます。
ドイツの店でビールを頼むと、必ずグラスで出てきます。瓶で頼んでも、グラスが一緒に運ばれてくる。あちらでは、注いで飲むことがそもそも前提になっています。
私たちの店で瓶にグラスを添えるのも、これを引き継いでいるからです。頼まれなくても付けます。
◯ 色が見える
もうひとつ、地味ですが効くのが見た目です。
澄んだ黄金色なのか、少し赤みのある琥珀色なのか、白く濁っているのか。飲む前に色を見ると、脳が勝手に味の予想を始めます。その予想と実際の味を答え合わせするのが、ビールを味わうということの半分くらいを占めていると思います。
缶のままだと、この工程がまるごと飛びます。
💡 グラスは、家にあるもので足りる
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🍻 専用のグラスはいりません こう書くと「専用グラスを買え」という話に聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。 家にあるコップで十分です。強いて条件を挙げるなら、口がすぼまっていない、まっすぐか少し広がった形のもの。鼻が入る余裕があれば、それでいい。 大きさは、缶1本がちょうど入るくらいだと注ぎやすいですが、小さめのコップに分けて注ぐのも悪くありません。注ぎ足すたびに泡が立ち直るので、香りが何度か立ち上がります。 ワイングラスでも構いません。実際、香りの強いビールをワイングラスで出す店はドイツにもあります。
🍻 洗ったあとだけ、少し気をつける ひとつだけ、意外と効くコツがあります。 洗剤の油分が残っていると、泡がすぐ消えます。 店ではここをかなり気にしていて、グラスは専用の洗い方をして、拭かずに伏せて水を切ります。泡がきれいに立たないグラスは、洗い直します。 家でも同じで、よくすすいで、水滴が残ったまま注ぐくらいでちょうどいい。乾いた布で拭くと繊維が残ることがあるので、濡れたままのほうがきれいに泡立ちます。
🍻 注ぐ直前に、水でひとくぐり もうひとつ、店でやっていることを。注ぐ直前に、グラスを水でさっとくぐらせます。 ビールを扱う店には、グラスを伏せて押すと水が噴き上がる装置が置いてあることがあります。あれをやっているわけです。 理由は三つあります。棚に置いているあいだに付いたホコリや匂いを流すこと。グラスの温度を下げること。そして内側が濡れていると、注いだときに泡がグラスの壁に貼りつきにくく、きれいに立ち上がること。 家なら、蛇口の水でさっと流して、水気を切らずにそのまま注ぐだけで十分です。乾いたグラスに注ぐのと、ひとくぐりさせたグラスに注ぐのとでは、泡の見え方がはっきり変わります。 手間はほとんどかからないので、これはおすすめしたい一手です。 冷凍庫でグラスを凍らせるのは、香りを楽しみたいビールにはおすすめしません。霜が溶けて水っぽくなりますし、冷えすぎると香りが閉じてしまいます。 |
💡 それでも、缶のままでいい日はある
ここまで書いておいてなんですが、缶のまま飲む日があってもいいと思っています。

キャンプやバーベキューでグラスを持ち歩けないとき。仕事から帰って一秒でも早く飲みたいとき。洗い物を増やしたくない夜。そういう日は、缶のままでまったく問題ありません。
缶のまま飲むと苦みを強く感じる、という人もいます。飲み口が狭いぶん、舌の上を通る道筋が変わるからだと言われます。それが好きだという方もいて、これはもう好みの領域です。
大事なのは、そのビールが何で勝負しているかを知ったうえで選ぶことです。喉ごしで飲む日と、香りを楽しむ日を、自分で切り替えられるようになる。それがいちばん贅沢な飲み方だと思います。
店では、注ぐところまでが私たちの仕事です。温度を決めて、グラスを整えて、泡をつくって出す。家で缶を開けるときは、その役を自分でやることになります。 だからこそ、注ぐか注がないかで差が出ます。
温度やグラスの形の話はご自宅でシュマッツビールを楽しむ飲み方のコツで詳しくご紹介しているので、あわせてどうぞ。
💡 注いだほうがいい一本、というのはあります

シュマッツのジャーマンピルスナーは、香りのために選んだホップを使っています。缶のまま飲むと、そのいちばんの持ち味が届きません。
グラスに注いで、最初のひと口の前に一度だけ香りを嗅いでみてください。草やハーブのような、落ち着いた青い香りが立つはずです。そこからが本番です。
ビールはオンラインショップでお届けしていますし、レストランでは樽から注いだものをお出ししています。同じビールでも、注ぎたては家で飲むのとまた違う顔をしています。