10杯のジョッキを運ぶウェイトレス、ビールを注ぎ続けるプロ、工場のような厨房──オクトーバーフェストを支える人たち

10杯のジョッキを運ぶウェイトレス、ビールを注ぎ続けるプロ、工場のような厨房──オクトーバーフェストを支える人たち

10杯のジョッキを運ぶウェイトレス、ビールを注ぎ続けるプロ、工場のような厨房──オクトーバーフェストを支える人たち

テントの中で、思わず二度見した光景があります。

ひとりのウェイトレスが、両手で抱えたジョッキの山を、人混みの間をすり抜けるように運んでいく。数えてみたら8杯。1杯1リットルのビールがなみなみと入って、です。

「あれ、何キロあるんだろう……」

前回の記事では、オクトーバーフェストの「裏側」──主催者や出店権、設営の仕組みを解剖しました。でも現地で心を掴まれたのは、じつは仕組みよりも「人」だったんです。今回は、この巨大な祭りを最前線で支える人たちの話を。


「誰がこの祭りを動かしているのか」──主役は“人”だった

 

650万人が16日間で押し寄せる祭り。その一杯一杯を、最後に運んでいるのは生身の人間です。

テントの規模は工場並みでも、お客さんにビールを届ける瞬間は、結局のところ人の手にかかっている。私たちシュマッツもレストランの仕事をしているので、ここはどうしても気になってしまいました。

見れば見るほど、彼ら・彼女らの仕事は「すごい」を通り越して、ちょっと信じられないレベルなんです。


7杯、8杯、14杯──ジョッキを運ぶ超人技

 

標準は7杯、熟練者は8杯

現地のウェイトレスに話を聞くと、標準は「6杯+その上に1杯」の計7杯だそうです。取っ手を中央でぎゅっと握り、両手で抱える独特の持ち方をします。

熟練者になると8杯。重さにすると約18.5キロです。1リットルのジョッキは、満杯だと中身と合わせて約2.3キロありますから、米袋(5kg)3袋以上を抱えて歩き回る計算になります。

「もっと運べるけど、混んでるときは無理しないの」と、ある熟練のウェイトレスは笑っていたとか。安全第一、というわけですね。

記録は14杯以上、ギネスは19杯

ところが上には上がいます。報道では、一度に**14杯(約32キロ)**を運ぶ猛者が紹介されていました。個人記録で16杯という人も。

そしてギネス世界記録は、なんと19杯。2008年に達成された記録で、重さは約45キロにもなります。

45キロのビールを抱えて歩く。もはやアスリートの領域ですよね。あの華やかなディルンドル姿の裏に、これだけの体力勝負があるんです。


時給ゼロ? ウェイトレスは「自営業者」だった

 

ビールを「仕入れて売る」という働き方

ここがいちばん驚いたところです。

オクトーバーフェストのウェイトレスの多くは、テントに雇われた「時給労働者」ではありません。立場としては自営業者(selbstständig)。テントからビールを“仕入れ値”で買い取り、お客さんにメニュー価格で提供して、その差額とチップが収入になる仕組みなんです。

つまり、たくさん運んで、たくさん売った人ほど稼げる。あの猛烈な運搬スピードには、ちゃんと経済的な理由があったわけですね。

 

シーズンで5,000〜16,000ユーロ、でも12時間×16日

気になる収入は、現地メディアやバイエルン州の観光情報によれば、シーズン全体でおおむね5,000〜16,000ユーロ。日本円にすると、ざっくり80万〜250万円ほどでしょうか。

ただし、これは天候と担当エリアに大きく左右されます。雨が続けば客足は鈍るし、人気のボックス席を任されるかビアガーデンかでも差が出る。しかも勤務は1日最大12時間を16日間ぶっ通し。決して楽して稼げる世界ではありません。

華やかさの裏にある、れっきとしたプロの仕事。そう思うと、現地で一杯頼むときの「ダンケ(ありがとう)」にも、自然と力が入りました。


ビールを注ぎ続ける「プロ」たち

アウグスティーナーの木樽は、誰でも注げるわけじゃない

運ぶ人がいれば、注ぐ人もいます。

前回の訪問記でも触れたアウグスティーナーは、オクトーバーフェストで唯一、200リットルの木樽(ヒルシェン)だけでビールを提供する醸造所です。1987年から続く、いまや特別な伝統。ほかの醸造所がステンレスタンクから注ぐなか、ここだけは本物の木樽から注ぎ続けています。

そして、この木樽から注ぐのは、誰にでもできることではありません。木の樽はガス圧で押し出すタンクとは勝手が違い、泡の立て方も注ぐリズムも一筋縄ではいかない。熟練の注ぎ手だからこそ成立する技なんです。

実際、テントの求人を見ると「注ぎ手」は専門職として募集されていて、「経験があること」「マスジョッキを高頻度で正確に満たせること」が条件に挙げられています。注ぐことそのものが、立派な職人技なんですね。

 

「ブリューマスターでさえ注ぎ手をやりたがる」現地で聞いた話

面白い話を現地で耳にしました。

なんでも「某醸造所のブリューマスター(醸造責任者)でさえ、オクトーバーフェストの期間中は注ぎ手をやりたがる」というんです。理由はシンプルで、注ぎ手の実入りがそれだけいいから(笑)。

ビールづくりのトップが、祭りの間はジョッキを注ぐ側に回る。真偽のほどは現地で聞いた話なので確かめきれていませんが、いかにもオクトーバーフェストらしい逸話だと思いませんか。それだけ「注ぐ」という仕事が、誇りと実利を兼ねた特別なポジションだということなんでしょう。


工場のような厨房──1日3,000羽の鶏

500㎡・122人・3交代制

ビールの話が続きましたが、料理を支える厨房もまた、桁違いです。

最大級のテント「オクセンブラーテライ」の厨房を取材した記事によると、その広さ約500平方メートル、シーズン中は122人が常時雇用され、3交代制で休みなく回しているそうです。同時にグリルされる鶏は320羽。

もはやレストランの厨房というより、食品工場のラインに近い。私たちシュマッツの店舗の厨房とは、規模がまったく別次元です(笑)。

 

ひと夏で鶏43万羽、ソーセージ54万本

この一店だけで、1日に提供する鶏(ヘンドル)は2,500〜3,000羽。会場全体になると、その胃袋はさらに想像を絶します。

ある年の公式統計では、ひと夏で鶏が約43万羽、焼きソーセージが約54万本、豚すね肉が約7万本、魚が約5万キロ消費されたと記録されています。

数字を眺めているだけで、お腹が空いてきますよね。これだけの料理を、毎日きっちり熱々で出し切る。厨房スタッフの底力があってこその祭りなんです。


13,000人を雇う「期間限定の街」

固定8,000人+交代制5,000人

 

運ぶ人、注ぐ人、つくる人。これを全部足すと、いったい何人になるのか。

ミュンヘン市の公式レポートによれば、オクトーバーフェストはシーズン中に約13,000人の雇用を生み出しています。内訳は固定契約が約8,000人、交代制の季節労働が約5,000人。

たった16日間のために、1万3千人。前回お伝えした「42ヘクタールの仮設の街」は、こうして人の力で動いているわけです。設営や撤去まで含めれば、関わる人の数はさらに膨らみます。

一杯のビールの向こうには、これだけの人がいる。そう知ってから飲むと、味わいまで少し変わる気がするんです。


本場のサービスを、日本で

 

ミュンヘンで働く人たちを間近に見て、いちばん感じたのは「おもてなしの熱量」でした。

重いジョッキを笑顔で運び、忙しさのなかでもお客さんとひと言かわす。あの空気感こそが、オクトーバーフェストを“ただのビール祭り”で終わらせない理由なんだと思います。

私たちシュマッツも、本場ドイツのスタイルとサービスの心を、日本のお店で大切に受け継いでいます。本場仕込みの一杯と、心のこもったおもてなしを、ぜひ店舗で体感してみてください。

シュマッツ 店舗情報

「お店に行く前に、まずは家で本場の味を」という方は、オンラインショップもどうぞ。ドイツの醸造文化を大切にしたビールを取り揃えています。


シュマッツ オンラインショップ

ドイツビールそのものの背景に興味が湧いた方は、ドイツビールって何だろう?もあわせてどうぞ。一杯の見え方が、また変わります。

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